統合報告書で描く、神奈川中央交通グループの未来──社内外の連携で実現する“信頼”と“価値”の創造

統合報告書の発行を通じて、ESG経営の推進や企業価値の向上、そしてすべてのステークホルダーとの信頼構築を目指してきた神奈川中央交通グループ。地域に根ざしたバス事業で100年以上の歴史を持つ同社が、どのように社内での連携を強化し、投資家や利用者に向けて自社の魅力や戦略を発信してきたのか? その舞台裏と今後の展望に迫ります。

神奈川中央交通株式会社
神奈川県の大部分および東京都南西部を基盤に、国内最大級の車両保有数を誇るバス事業を展開。交通インフラを軸としながら、不動産・飲食・ホテル・レジャーなど多角的なサービスを通じて地域の生活を支える。現在はMaaSの推進や地域価値の創造にも注力し、安心・快適な街づくりの実現に取り組む。

神奈川中央交通株式会社統合報告書2025

神奈川中央交通株式会社 統合報告書2025

東証市場再編を契機としたIR活動の見直しと、企業価値向上への挑戦

村山様、荒川様

(写真:左から)神奈川中央交通株式会社 経営戦略部(広報・IR担当)課長 村山 大輔様、係長 荒川 真澄様

──統合報告書を制作しようと思われたきっかけをお聞かせください。
村山様(以下、敬称略):以前よりIR活動の強化を検討していましたが、2022年4月の東証市場再編を契機に、私たちはプライム市場に上場する企業として、その考えを加速させました。中でも、統合報告書の発行は当社の成長ビジョンや価値創造活動を広く発信するために不可欠であると認識し、市場再編を機に具体的な検討を始めた最優先課題の1つでした。組織体制についても見直しを行い、新設された専門部署で約1年かけて準備を進め、2023年秋に最初の統合報告書を発行しました。2025年秋で3回目の発行を迎えています。
私たちが統合報告書を作成するにあたって大切にしてきたのは、ESGの視点を経営に取り入れた企業価値向上のプロセスを分かりやすく説明すること、そして透明性の高い開示を通じてステークホルダーの皆様からさらなる信頼を得ることです。より多くの方に神奈川中央交通グループの考えや取り組みに興味を持っていただき、株主や投資家の皆様との建設的なコミュニケーションを促進させるツールという位置づけで、作成作業を進めてきました。
もちろん、統合報告書の主な対象は機関投資家ですが、個人投資家や当社を利用されるお客様などすべてのステークホルダーの方々に読んでいただき、神奈川中央交通やグループ全体の現状、今後の事業戦略をきちんと理解してもらえる内容を目指しました。日頃から当社グループのサービスをご利用いただいている皆様には私たちの事業をよく理解していただけていると思いますが、株式市場に向けてはさらなるアピールの必要があると感じています。100年以上にわたってお客様の生活を支えてきた会社として、これからも必要とされる存在であり続けるために、将来への取り組みや事業戦略などを積極的に発信し、神奈川中央交通の目指す姿についてもっと多くの方に知っていただきたい──そんな思いを最初から大事にしてきました。

統合報告書とは?作り方・目的・記載項目をわかりやすく解説【初心者向けガイド】

──統合報告書の検討を始めた際に、社内ではどのような議論がありましたか?また、内容について、どのような情報や表現を盛り込もうと思われましたか?
荒川様(以下、敬称略):プライム市場上場企業として、統合報告書の発行は「ほぼ必須」という共通認識が社内にありましたので、制作の必要性を問うような意見はありませんでした。
内容については、3年にわたる統合報告書の発行を通じてブラッシュアップを続けてきました。初年度は会社紹介に寄せた構成でしたが、2年目は新しい中期経営計画の発表に合わせて重点課題や戦略の記載を大幅に拡充しました。3年目となる2025年版では投資家やアナリストからのフィードバックを踏まえ、さらなる内容の充実を図っています。特に価値創造プロセスにおいては、当社独自の強みをより明確に打ち出すようなものへと見直しました。

社長・社外取締役メッセージに込めた想いと表現へのこだわり

──制作の過程で、特に印象に残っていることやご苦労された点をお聞かせください。
村山:私の所属する経営戦略部はIRを担当する部署であり、社長直轄の組織でもあります。社長は常日頃から「会社の魅力を発信するには、担当部署だけではなく、従業員全員が自社・グループの顔であるという認識を持つことが重要だ」と話しており、統合報告書発行にあたっても「経営戦略部だけに任せるのではなく、統合報告書で発信する内容にみんなそれぞれ責任を持ってほしい」と社内に呼び掛けてくれました。
その影響もあって、原稿の準備やゲラのチェックなどを含む他部署とのやり取りは想像以上にスムーズに進みました。発行を担当する立場から見ると、初年度から大きなスケジュールの遅れもなく進められたのは、やはり経営トップの積極的なリードがあったからだと強く感じています。

──現場の担当者や他部署の協力体制にどのような変化が生まれましたか?
荒川:統合報告書という“形にして取りまとめる”場ができたことで、各部の施策が投資家目線で再検討され、達成度合いの管理が進んだと感じます。また、社内における横の連携も促進され、旅客自動車事業と不動産事業など、これまで接点の薄かった部署間でも相互理解が進みました。

──作成スケジュールはどのように設定しましたか?
村山:更新情報の締め切りについては制作期間や発行時期(9月中旬)から逆算して、事前に決めておきました。当社は3月期決算です。例えば、3月までの情報は統合報告書に反映して、5月や7月の内容は状況を見ながら対応、8月の情報までを盛り込むのはさすがに厳しいので具体的な締め切り期日を設ける、といった具合でした。特にサステナビリティ関連では、旅客自動車運送事業運輸規則に基づいた「安全報告書」をベースとした開示を前提としているため、締め切りを国の提出時期である7月より前に設定することができないという当社の事情も踏まえ、更新情報の締め切りを検討しました。

 

社長メッセージと社外取締役メッセージ

──制作の中で、特に力を入れられたパートやページはどの部分でしょうか?

村山: 社長メッセージと社外取締役メッセージのセクションは、統合報告書において極めて重要な「顔」となる部分であり、単に既存情報を再構成しただけでなく、報告書独自のコンテンツを多く含んでいます。
特に、社外取締役の対外的な登場は当社初の試みであり、社外取締役の皆様の前向きなご協力もあって実現しました。
このセクションが社内外の多くの方に読まれ、当社の理解促進に繋がったのであれば、調整に尽力した甲斐があったと感じています。

──伝えたいメッセージを形にするためにどのような工夫をされましたか?
村山:2024年の日経統合報告書アワードでの評価を受け、2025年の社長メッセージでは「大所高所からの課題認識と解決に向けた考え方」をより明確に打ち出すようにしました。
投資家にとって統合報告書を読む時間が限られるなかでも、社長メッセージには優先的に目を通してもらえるだろうという前提のもと、“社長メッセージを読めば、当社の想いや考え方が伝わる”内容と構成になるよう細心の注意を払って制作しました。また、作成支援パートナーである宝印刷のサポートもあり、撮影のロケハンやページデザインの設計、取材前の打ち合わせによる質問設計・意思疎通の徹底が有効に機能し、取材当日の対応や、その後の原稿確認なども非常に円滑に進行できました。

──鼎談による社外取締役メッセージの効果はありましたか?
村山:統合報告書の 1回目と2回目は、社外取締役からそれぞれメッセージを寄稿いただく形でしたが、3回目(2025年秋)に社長と独立社外取締役2名で鼎談するスタイルへ変えたところ、議論が非常に活発になりました。
ただ、複数人が登場する鼎談では、視点が多様になるため、全体としての方向性が分かりやすくなるような編集作業が必要になりますが、ここでも宝印刷に協力をしていただけました。具体的な課題についても触れる内容とすることができ、投資家や従業員の皆さんに社外取締役の考え方をしっかり伝えられたと思っています。

統合報告書の制作後、社内外からはどのような反響がありましたか?
村山:投資家とのIRミーティングでは、事前に統合報告書を読んで来てくださる方が増えていて、初めてお会いする場合でも、すぐに話が始めやすくなったと感じています。また、経営者自身の言葉による情報発信を盛り込めたことで、会社が目指している方向性、今すぐ取り組むべき課題などがはっきりし、社内や外部のステークホルダーからもおおむね好意的な反応をいただいています。

──社内では統合報告書をどのように活用していますか?
村山:紙媒体を各部署の課長クラスに配布して、担当内での回覧と内容浸透が進むようにしています。実際、紙だと手に取りやすく、内容が社内全体に浸透しやすいというメリットがありますので、共通認識の形成に役立てています。

荒川:特にKPIは目に留まりやすく、統合報告書の事業別戦略では、中期経営計画(2024年度~2026年度)の当初計画と2024年度実績の振り返りを掲載しており、他部署の目標への理解が進んだという意見も寄せられています。

村山:初年度は「会社の考えがよくわかった」という社内からの声が多くありました。2年目、3年目と内容がより浸透していき、女性管理職比率などのKPIが全社で共有されて、社内の意識が変わってきたように思います。

宝印刷をパートナーに選んだ理由とその支援の成果

宝印刷担当と

(写真:宝印刷 担当と)

──統合報告書の作成支援パートナーとして、宝印刷を選んでいただいた理由は何ですか?
村山:作成にあたっては記載内容等をゼロから考える必要があったため、統合報告書の作成ノウハウを持っているかをパートナー選定の条件として重要視しました。またディスクロージャー業界の最新情報をすぐに反映できる支援体制を備えているかも大きなポイントでした。その点、宝印刷には、元々有価証券報告書や株主通信の作成支援を依頼していたこともあり、当社のビジネスや体制などもよく理解してもらえていることから、安心して依頼できるのではないかと考えました。

荒川:当初は広告会社も含めた複数の会社から、スケジュールや費用、作成する上で重視すべき点などのお話を伺っていました。その中で、当社が達成すべきことの優先順位を整理し、投資家が求める情報や最新動向を的確に押さえていることを重視した結果、宝印刷がパートナーとしてふさわしいだろうという結論にいたりました。

──宝印刷の支援で印象に残っていることや良かった点はありますか?
村山: 価値創造プロセスの策定については当初、相当な苦労が伴いました。社内では明確に図示されたものがなかったため、掲載を見送るという選択肢もありました。
しかし、宝印刷のご担当者様から参考事例などの紹介とともに「ぜひ挑戦を」と後押しをいただいたことで、掲載を決断し、急ぎ社内調整を進め、「価値創造プロセス」の策定に至りました。
結果として、適切な情報開示ができたことは大変良かったと考えております。この価値創造プロセスは、新中期経営計画の発表などに合わせてブラッシュアップを重ねており、その際にも宝印刷に協力いただいております。

──社長・役員の関与はどの程度だったのでしょうか?
村山:社長が経営会議の場で何度も「制作は特定の部署だけに任せず、各部署が自分たちの内容には責任を持ってチェックしよう」と話していました。その結果、各部門のトップが自ら原稿の確認に加わるような体制ができました。また、役員が管掌領域外の記載について内容を確認し合い、気づきを共有し合うなど、会社全体で開示の質を高める仕組みができたと感じています。

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企業価値向上へ向けた報告書の新たな挑戦

──今後、統合報告書をどのように発展させていきたいと考えていますか?
村山:統合報告書は毎年発行し続けるものですが、「前年と同じ内容を繰り返すだけの報告書」にはしたくないと考えています。経営陣のリーダーシップのもと、会社全体の戦略や施策の進捗を反映させながらアップデートしていくことが重要であり、そのプロセスを繰り返すことで、役職員全員が「これは会社全体の大事な取り組みだ」という共通認識を持てるようにしていきたいと考えています。
また、構成についても「自分たちが伝えたいこと」だけではなく、「投資家が知りたいこと」を十分に開示できているかを意識しながら、ブラッシュアップに努めていきます。

荒川:統合報告書を作成することで、社長が掲げる方針と、各部署での取り組みとのつながりなども整理・可視化され、部署をまたいだ連携や進捗の管理も以前より精度が高まっていると感じています。担当者同士が「あの取り組みの進捗はどう?」と気軽に話すようになるなど、統合報告書を起点に、課題や成果に関する社内コミュニケーションや理解の深化が進む良い循環が生まれました。

──次回発行に向けた具体的なアイデアがあれば教えてください。
村山:最近は役員や部長が統合報告書に登場する機会が増えていますが、今後は現場で実際に業務を担っている課長以下のメンバーも登場させて、当社の目指す将来像と各部署の仕事がしっかり結びついていることを伝えたいですね。

荒川:ただ施策を紹介するだけではなくて「その施策がどう企業価値の向上につながるのか」というストーリーをもっと強く打ち出したいと思います。‎実施した施策を並べるだけではなく、どんな効果があったのか、施策を通して新しく見えてきた課題まで踏み込んで、きっちりとPDCAが回っている様子を見せるのが理想だと考えています。

村山様、荒川様

資料『統合報告書 事例研究集』をDL ›