アインホールディングスの経営戦略と未来展望──WEB版統合報告書による情報アクセシビリティの向上と新たなコミュニケーションへの挑戦

経営の透明性向上とステークホルダーとの対話促進を目的に、統合報告書の制作に取り組んできた株式会社アインホールディングス。2025年4月期には、新たにWEB版の公開も開始しました。スマートフォンやタブレット、PCからスムーズに必要な情報にアクセスできる環境を整えたことで、投資家をはじめとする幅広い読者層にとって、検索性と利便性の向上につながっています。

株式会社アインホールディングス
調剤薬局業界のリーディングカンパニーとして、全国に「アイン薬局」を中心としたネットワークを展開。ファーマシー事業を核に、コスメティックストア「アインズ&トルペ」やインテリアショップ「Francfranc」を運営するリテール事業など、ヘルス&ビューティ領域で多角的に事業を展開しています。ICTの活用や専門性の高い人材育成を通じ、地域社会の健康と豊かな暮らしを支えています。


株式会社アインホールディングス 統合報告書2025

対話による透明性とコンテンツ充実への取り組み

(写真左から 株式会社アインホールディングス 経営企画室 広報・IR課長 シニアマネジャー 金 順伊 様、経営企画室 広報・IR課 シニアマネジャー 山下 貴弘 様)

──最初に統合報告書を制作しようと思われたきっかけを教えてください。
金様(以下、敬称略):今までの開示は、英文のアニュアルレポートと単年度の事業報告が中心で、当社の中長期的な価値創造プロセスを十分に伝えきれていないという課題がありました。
そうした中、機関投資家から財務情報に加えてサステナビリティなど非財務情報の開示を求められる機会が増え、2020年よりサステナビリティ経営に本格的に着手し、マテリアリティ(重要課題)の特定と開示を進めてきました。
さらに、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂を契機に、経営戦略やガバナンスを統合的に伝える必要性が高まり、成長戦略をより分かりやすく発信する手段として、2022年4月期より統合報告書の制作を決定しました。

──サステナビリティ経営への取り組みについて教えてください。
金:2020年よりサステナビリティ経営に本格的に取り組み、6つのマテリアリティを特定するとともに、2030年度までの目標を設定しました。これらをグループ横断で推進するため、代表取締役社長を委員長とし、各本部長や主要子会社社長等で構成する「サステナビリティ委員会」を設置しています。当初はKPIや目指す姿の設定に試行錯誤もありましたが、プロジェクト内での議論を重ねることで整理してきました。
また、投資家の皆様から寄せられた「分かりにくい」「こうしたKPIも示すべき」といったご意見を経営企画室で精査し、関連部署と連携しています。こうした対話を通じて、開示内容の質を継続的に高めています。

──制作の過程で、特に印象に残っていることやご苦労された点を教えてください。


金:まず中長期的な価値創造ストーリーの整理から着手しましたが、当時はまだ「中長期ビジョン」が確定しておらず、方向性をどう描くかについて相当な議論を重ねました。そのうえで事業別ビジョンをどのように掲載するかを検討しましたが、各部署の地道な取り組みをすべて伝えたいという思いがある一方で、読者にとって何が重要かを見極めることが難しく、掲載内容の選定には多くの時間を要しました。

山下様(以下、敬称略):私自身、サステナビリティ情報は企業の持続的な成長戦略そのものだと感じており、財務情報とどのように統合して当社の事業を説明するか、全体の構成をどう設計するかという点で難しさがありました。従来のIR中心の開示から統合的に伝える形へと整理していく過程には、試行錯誤もありました。制作にあたってはサステナビリティ推進室と経営企画室で分担して進めましたが、情報収集自体は比較的円滑に進んだ一方で、整合性や表現、体裁の統一には時間を要しました。

金:制作を重ねる中で、機関投資家の皆様との対話の機会も増えてきました。頂いたご意見については可能な範囲で開示にも反映しながら、透明性の向上に努めていきたいと考えています。すべてのご意見にお応えすることは難しい面もありますが、社内の関連部署へ確実にフィードバックし、前向きな議論と開示内容の改善につなげていきたいと考えています。

──今回、特に力を入れられたパートについて教えてください。
金:医薬ヘルスケアとコンシューマー領域を担当する2名のアナリストと社長による鼎談企画、そして監査役3名による鼎談記事に特に力を入れました。いずれも今回初めての試みで、企画段階から社内で議論を重ねて進めました。証券会社のアナリストや社外監査役といった外部の視点を取り入れたことで、当社の社会的価値や戦略、ガバナンスについて、より客観的な形でお伝えできたのではないかと感じています。

──対談・鼎談企画が豊富ですが、人選や構成のポイントを教えてください。
金:当社の事業特性や現状の課題を深く理解いただいたうえで、率直なご意見をいただける方にご参加をお願いしています。鼎談の進行にあたっても、あらかじめ当社の課題を共有したうえで議論を行い、その内容をできるだけありのままお伝えできるよう整理しています。実際に監査役鼎談に参加された社外監査役からも、「制作側の意図が強く出すぎて発言していない内容まで掲載される事例もあるが、今回はそうした懸念がなく、内容もよく整理されている」といったコメントをいただきました。

山下:アナリストとの鼎談については、当社を外部からどのように見られているかという評価の視点を重視し、できるだけフラットな立場で率直なご意見をいただける方にご参加をお願いしました。業界に関する十分な知見をお持ちであることに加え、当社の事業が外部環境の影響を受けやすい特性も踏まえ、投資家目線から当社に求められていることや不足している点についても遠慮なくご指摘いただける方を選定しています。また、当社を担当されているアナリストの方だけに偏らないよう配慮し、できるだけ客観的な視点を確保することも意識しました。

金:対談・鼎談企画を通じて、当社の良い点だけでなく、課題や今後の改善点についても忌憚なくお話しいただくことで、当社の姿勢そのものをお伝えできればと考えています。

WEB版導入の意義と情報アクセシビリティの向上

──2025年4月期の統合報告書からWEB版を新設されました。導入のきっかけを教えてください。
金:生成AIの急速な発展もあり、従来のPDF中心の開示では検索性やアクセス性に課題を感じていました。より多くの方々にアイングループの取り組みを知っていただくため、検索エンジンからもアクセスしやすく、必要な情報にたどり着きやすいWEB版の制作が必要だと判断しました。また、紙媒体やコーポレートサイトなどに分散している情報を、統合報告書を「ハブ」として整理・集約していきたいという狙いもあります。誌面のQRコードからWEB上の詳細情報へ誘導するなど、情報のシームレスな連携を一層進めていくことで、より分かりやすい情報発信につなげていきたいと考えています。

──初めてのWEB版制作において、どのような視点を重視されましたか。
山下:WEB版の制作は初めての試みであったため、宝印刷からの支援をいただきながら、プロジェクトを推進しました。私自身も「一兆円企業レベルのIR開示とはどのようなものか」という観点からWEB版統合報告書の普及状況を調査したところ、対象とした37社のうち、WEBページで統合報告書を公開している企業は3社程度でした。今後こうした取り組みはさらに広がっていくと考えており、当社として早い段階で取り組む意義があると判断しました。
WEB版では必要な情報に直感的にアクセスできる点に加え、デバイスを問わずレスポンシブに閲覧できる環境など、利用者目線での使いやすさを重視しました。今後は、これまでの鼎談やトップメッセージに加え、執行役員をはじめ現場で働く社員の思いも発信するなど、コンテンツの幅を広げていきたいと考えています。

制作後のフィードバックと新たなコンテンツ展開

──統合報告書の導入後、機関投資家や株主とのコミュニケーションにどのような変化がありましたか?
金:SR面談におきましては、統合報告書を提出することで「会社が事業で何を目指しているのか分かりやすくなった」といったお声を頂く機会が増えました。一方で、「この部分はもう少し具体的にした方がよい」といった改善に向けたアドバイスも継続的にいただいています。
そうしたご意見は速やかに関連部署へ共有し、追加の開示や統合報告書へ反映するなど改善を重ねており、そうした姿勢はご評価いただいています。当初は文章量が多く分かりづらいという声もありましたが、現在は図表を増やすなど、可視性の向上にも取り組んでいます。

山下:投資家の皆様は非常に多忙ですので、一読して直感的に内容をご理解いただけることが重要だと考えています。金の話にもあったように、図表化や要約の工夫など、視覚的な訴求力と情報の整理のバランスは今後も意識していきたいポイントです。

──社内外からの反応について教えてください。
金:2024年版では社外役員比率を上げ、各種体制図を追加するなど、ガバナンス面で高い評価をいただきました。2025年版では中長期ビジョンをより前面に出した構成に見直しており、今後のSR面談では、株主の皆様のご意見を集約する予定です。

山下:行政の方が視察に来られた際にも、当社の取り組みをご理解いただくために統合報告書を配布しました。社外の方に当社の全体像をお伝えする場面でも活用できるツールになっていると感じています。また社内でも「会社全体の状況が分かりやすい」といった声があり、特に営業部門やリクルート部門など、自社理解を深める必要がある部署で重宝されています。中長期的なビジョンや成長戦略、人的資本やガバナンス、コンプライアンスに関する情報が一冊に体系的に整理されたことで、会社の目指す方向性を改めて考える契機にもなっており、完成を楽しみにする社員も年々増えていると感じています。形式的になりがちな情報も平易な言葉で整理されているため、社内外を問わず理解しやすい資料として機能していると考えています。

──制作パートナーである宝印刷に期待することを教えてください。

(写真:宝印刷担当と)

金:統合報告書の内容が年々充実する中で、「もう少し図で示した方が分かりやすい」といったご意見をいただくことがあります。今後は、こうした点を改善していくためにも、図版化やデザイン面でのご提案をこれまで以上にいただけるとありがたいです。

山下:各ページの図版化や全体のデザインについては、これまでも対応いただいていますが、読者の期待水準も高まっていると感じています。そのため、より多様な表現方法やレイアウトの提案など、柔軟なアイデアを引き続きご提示いただけることを期待しています。また、方針変更や開示トレンドの変化にも対応できるよう、継続的な情報提供やサポートをいただけると心強いです。

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──今後、統合報告書をどのように発展させていきたいとお考えでしょうか?
金:今後は、内容の「濃さ」と「分かりやすさ」を両立した統合報告書を目指していきます。数字や図を効果的に用いながら、詳細を知りたい方にも、全体像を短時間で把握したい方にも満足いただける構成を追求していきたいと考えています。また、中長期的な成長性を感じていただける内容を随所に盛り込むことで、幅広い読者にとって納得感のある統合報告書へと発展させていきたいと思います。

山下:2025年12月には、中長期ビジョン「Ambitious Goals 2034」の公表や外部環境の変化を踏まえ、マテリアリティの見直しを行いました。その中で、「社員の成長と活躍」を新たに独立したマテリアリティとして位置付けています。今後はこのテーマを軸に、有識者との座談会の実施や、取締役、CFO、人事本部長など現場のリアルな声の発信を強化し、当社の価値創造ストーリーをより立体的に伝えていきたいと考えています。

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