近年、日本企業における統合報告書の発行社数は増加の一途をたどっています。2025年には発行企業数が1,214社に達し、プライム市場上場企業では1,023社とプライム市場全体の65%にまで迫る勢いとなってきており、スタンダード市場でも100社を超えています。しかし、内容の充実とともに「情報の肥大化(肉厚化)」が課題となっており、いかにステークホルダーへ効率的に伝えたいことを届けるかが問われています。
こうした中、注目を集めているのが「統合報告書解説動画」です。2025年には23社が導入し、前年から大幅に増加しました(※1)。本コラムでは、動画作成のメリットや先進事例等をお伝えします。
(※1 日経電子版 2026/2/24 「統合報告書を動画で解説、25年8割増 個人投資家や社員を意識」)※記事は有料会員限定です
統合報告書を「動画」で解説する3つのメリット

統合報告書は100ページを超えることも珍しくなく、読み手が全てを精読するのは困難です。動画を活用することで、以下のメリットを享受できます。
① 「ドアノックツール」としての高い訴求力
- 情報の要約: 膨大な報告書の中から、企業が最も伝えたい「価値創造ストーリー」の要点を3〜5分程度で提示できます。
- 本編への誘導: 動画を「さわり」として視聴してもらうことで、興味を持った視聴者を詳細なPDF(本編)へ誘導する導線が作れます。
② ステークホルダーの裾野を拡大
- 個人投資家・社員への浸透: 専門用語が多い冊子に比べ、動画は視覚・聴覚に訴えるため、個人投資家や自社の社員にとっても理解しやすくなります。
- マルチデバイス対応: WEBサイトやYouTubeでの配信により、時間や場所を選ばず視聴可能です。
③ 経営者の「熱量」と「信頼性」の伝達
- 非言語情報の活用: テキストだけでは伝わりにくい経営者の表情や声のトーンを通じて、企業のビジョンやESGへの真摯な取り組みをより深く印象付けられます。
- 対話の質向上: 前年の指摘に対する回答を動画に盛り込むことで、投資家との「建設的な対話」を深化させる姿勢を示せます。YouTubeなどで配信することで、若い投資家など多様な層からのコメントを得られる可能性が高くなります。
統合報告書解説動画の事例
各社は独自の切り口で動画を活用しています。代表的な事例を以下の表にまとめました。
住友化学 価値創造フローや注目すべき3つのページ(役員メッセージ等)を簡潔に解説。(約3.5分)
プレス工業 https://www.presskogyo.co.jp/ir/library/annual/annual_movie/move_2025.html
カバーストーリーから成長戦略、サステナビリティまでを網羅的に紹介。(約3分)
サンリオ 「統合報告書スクール for Kids」として、ビジョンを分かりやすく教育的に解説。(約12分)
学研ホールディングス 5つの重点課題に対する具体的な取組みについて担当者が自らの声で語っている。(約6分)
統合報告書解説動画を作成している企業の多くは、5分以内のハイライトを掲載しているケースが多い印象ですが、マテリアリティや価値創造プロセスなど、テーマフォーカス型の動画を掲載していくことも対話を深化させていく一助となることでしょう。
動画未作成の企業へ:なぜ今、着手すべきなのか
現在、上場企業は決算説明会やESG説明会など何らかの動画コンテンツを配信するケースが多くなっています。近年こそESG説明会などを掲載している企業も多いですが(※2)、内容は短期中期の決算説明会がかなりを占めており、「解説動画」にまで踏み込んでいる企業はまだ少数です(23社)。だからこそ、今取り組むことで他社との差別化に直結します。
(※2 2023/6/21 宝印刷D&IR研究所 研究員レポート「日経225銘柄におけるESG説明会等の開催状況」)
「読まれない報告書」からの脱却
せっかく多大なリソースを割いて作成した報告書も、読まれなければ企業価値向上には寄与しません。
- 目次等の工夫: A4横版のWEB閲覧用レイアウトやインタラクティブ機能に加え、前年からの変化や読みポイント等を付すことで「読ませる工夫」から「見せる工夫」へと進化させる必要があります。
- AIとの親和性: 今後はAIによる情報解析が進みます。構造化された動画データや、AI音声による解説は、デジタルネイティブな情報開示手法として、検索性やアクセシビリティを高めます。
投資家との「対話」を深化させる武器
- ESG説明会の補完: 短中期の業績が中心となる決算説明会に対し、動画は中長期の非財務資本(人財、知的財産など)の価値をじっくり説明するのに適しています。
- フィードバックの反映: 投資家からの疑問を翌年の動画のテーマに取り入れることで、「一方的な開示」ではなく「双方向のコミュニケーション」を具現化できます。
今後の展望と検討課題
統合報告書は「作って終わり」の冊子ではなく、それをもとにステークホルダーと議論を重ね、更なる対話の種とすることが求められているといえ、統合報告は「WEBと動画を使い分ける戦略的コミュニケーションツール」へと変貌を遂げています。
- 冊子とWEBの使い分け: 網羅的な情報は冊子(PDF)に、ダイジェスト版は動画に集約する役割分担。
- ターゲットの明確化: 機関投資家向けに深掘りするか、幅広い層に親しみやすく届けるかの戦略策定。
- 継続的な改善: 再生数や離脱率などのデータを分析し、次年度の報告内容や動画構成に活かすPDCAサイクルの構築。
情報過多の時代において、ステークホルダーに自社の魅力を正しく、かつ速やかに届けるために、「動画による解説」はもはやオプションではなく、IR戦略の不可欠な要素になりつつあります。2026年に向けた実効的なIR戦略を構築しましょう。