企業経営における“予算管理”とは、あらかじめ作成した予算に対し、進捗状況を管理する取り組みを指します。予算管理を実施することで、経営資源の効率的な配分が可能となり、成果の向上につながります。
しかし「予算が形骸化している」「予算どおりに進まない」など、課題が発生するケースは少なくありません。本記事では、予算管理を行うメリット・手順や実施時の注意点について、分かりやすく解説します。
予算管理とは

予算管理とは、企業活動において必要な予算を編成・配分したうえで、その執行状況を管理することを指します。予算は企業の利益目標のための計画であり、課題点を把握して軌道修正することが重要です。まずは予算管理の基本について、次のポイントから解説します。
予算の種類
予算管理の対象となる主な領域は以下の4つです。
| 売上予算 | 商品ごとの販売計画や受注計画などを立てる |
|---|---|
| 原価予算 | 商品の仕入れ価格や原材料費の予算を立てる |
| 経費予算 | 人件費・広告費・外注費などの予算を立てる |
| 利益予算 | 営業利益の計画を立てる |
利益予算は、売上予算から原価予算と経費予算を差し引いた数値であるため、基本的には売上予算・原価予算・経費予算を達成すれば利益予算も達成されます。
ただし、いずれかの予算目標が未達となった場合でも、ほかの予算で目標をカバーできることがあります。例えば、売上予算の目標が未達でも原価や経費を効率的にカットできれば、利益予算を達成可能です。
予算管理の目的
予算管理の最大の目的は、“利益目標を確実に達成すること”にあります。企業が継続的に利益を出して経営を安定させるためには、適切な目標設定と進捗状況の管理が欠かせません。期初に計画を設定して期中・期末で実績値と比較することで、現状と課題の把握と修正が行いやすくなり、生産性向上や費用削減につながります。
そのほかにも、予算管理には次のような意義があります。
- 経営目標の明確化
- 組織全体の方向性の統一
- 収益性の改善
- 無駄なコストの削減
- 経営判断の迅速化
予算管理と経営管理・予実管理の違い
“経営管理“や“予実管理“は予算管理と混同されやすい用語ですが、それぞれの概念や目的には明確な違いがあります。
経営管理は予算以外のさまざまな経営資源、例えばヒトやモノも管理することを指します。予実管理は、事業やプロジェクトごとに予算と実績の差異を把握・管理する取り組みです。つまり、予算管理は経営管理に含まれており、予算管理の手法のひとつが予実管理であるといえます。
予算管理では、計画の作成と実行、進捗管理と分析を行います。期初に作成した計画が予定どおり進んでいるか判断するために、期中・期末に実績データとの比較分析を行い、必要に応じて改善策を講じます。
予算管理を行うメリット

企業が予算管理を実施することで、次のようなメリットが期待できます。
経営資源を効率的に配分できる
予算管理は単にコストカットのために行うものではありません。予算管理を実施する最大のメリットが、限られた経営資源を成果の出やすい部分に投入できる点です。
企業のリソースは無限ではないため、「どの事業に投資すべきか」「どの部門のコストを見直すべきか」など、客観的に判断できる仕組みが必要です。予算管理を実施することで、数値に基づいた合理的な資源配分が可能となります。
例えば、経費予算の管理の一環として、部署ごとの人件費や利益率を可視化したところ、次のような課題が見えたとします。
| 部署A | 残業時間が多く、利益率が低い |
|---|---|
| 部署B | 稼働率が低く、業務に余裕がある |
人員に余裕がある部署Bから部署Aに数名異動させることで、部署Aの残業時間の削減と利益率の改善によって、人件費を抑えながら生産性を向上させることができます。このように、数値をもとに資源配分を臨機応変に調整することで、成果の最大化につながるのです。
社内で目標を共有できる
予算管理を実施することで、全社員が同じ目標を共有し、共通の基準で動けるようになります。予算を作る過程で、達成すべき売上や部門ごとのKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)、戦略などを明確にできます。組織全体の方向性が統一され、部署間の連携がスムーズになります。
例えば、あるBtoB企業では営業とマーケティングの連携がうまくいかず、互いに次のような不満を抱えています。
| 営業 | 質の悪いリードが多い |
|---|---|
| マーケティング | 営業が商談につなげてくれない |
こうした場合は、売上目標から逆算したリード数・商談数・成約数を、営業とマーケティングで共通のKPIとして設定するのが効果的です。マーケティングはリードの質、営業は商談対応率を改善し、双方が売上向上という共通目標に向かって連携できるようになります。また、同じ数値目標を扱うことで意思決定もスムーズになり、生産性の向上にもつながります。
経営の方向性を早期に修正できる
予算管理の本質は、計画と実績の差を早期に発見・修正することにあります。市場環境や顧客ニーズ、競合他社の状況は刻々と変化するものです。しかし、予算管理を適切に行っていなければ、「売上減に気付いたときには手遅れ」「赤字事業を長期間抱えてしまう」などのリスクが生じます。
例えば、アパレル企業で新商品の売上が目標の70%にとどまっている場合、予算管理で早期に問題を共有できます。生産量の削減・店舗ディスプレイの変更・セール開始時期の前倒しなどの施策を実施することで、在庫滞留や大幅値下げによる損失を避けることが可能です。
予算管理を行う手順・ステップ

“PDCAサイクル(Plan・Do・Check・Act)“に基づいて予算管理を実施すると、継続的に精度を高めることができます。各ステップで意識すべきポイントを解説します。
Plan:予算を編成する
まずは達成したい目標を明確化して、実現可能な予算を組みます。経営目標と連動させることや、過去実績を分析したうえで複数のシナリオを想定することが重要です。予算編成の主な手法には、“トップダウン方式“と“ボトムアップ方式“があります。
トップダウン方式は、経営陣が全体の予算計画を立てたうえで、現場に落とし込む手法です。経営方針に即した目標をスムーズに立てやすく、ガバナンスを効かせやすいことがメリットです。一方で、現場の実情を反映させることが難しく、管理者や担当者に過度な負担がかかる可能性があります。経営層のリーダーシップが強い企業や、急成長が必要なスタートアップ企業などに適しています。
ボトムアップ方式は、各部門の担当者が予算を積み上げてから、全社的な目標を設定する手法です。現場の意見を反映できるため、実態に即した精度の高い予算を立てやすいことがメリットです。しかし、全体の予算を編成できるまでに時間がかかることや、経営方針に沿わない目標となるリスクがあります。歴史が長く現場力の強い企業や、改善提案・イノベーションが盛んな企業に向いています。
トップダウン・ボトムアップそれぞれに良し悪しがあるため、企業の業種・文化・組織構造に応じた手法を選択することが大切です。
Do:予算を実行する
設定した計画に沿って各部門・部署に予算を配分し、実際の事業活動を行っていきます。実行段階ではただ予算どおりに動かすだけではなく、前述の売上予算・原価予算・経費予算・利益予算を日々管理することが大切です。予算の管理者が各部門の担当者と連携することで、計画をスムーズに進めやすくなります。
Check:実績と比較分析する
月次や四半期など各事業に適したスパンで、予算と実績値を比較分析します。両者の差を数値で判断し、その原因を詳細に分析することが重要です。具体的には、予算と実績値の差は“金額“や“率“で可視化し、売上未達・原材料費の高騰・人件費の増加などの主要因を特定します。また、定量情報だけではなく現場からのヒアリングも行い、定性情報からも予算未達の原因を探ると効果的です。
例えば、サービス業で売上目標200万円に対し、実績が180万円となった事例を考えてみましょう。客単価が変わらず、平日ランチの客数が前年同月比マイナス15%の場合、主要因として集客不足が考えられます。比較分析をもとに主要因を特定できれば、広告費投入やキャンペーン設計などの具体的な対策を考案することが可能です。
Act:改善策を講じる
分析で導き出した課題に対処するために、コスト削減・価格改定・販売強化・仕入れ先変更など、具体的な改善策を立案します。施策の効果と実行コストを比較し、予算との差異が大きい項目から優先的に実行することが重要です。
改善策は次期のPlan(予算編成)に反映しましょう。今期の予算と実績の差を反映し、数値目標や前提条件を修正することで、より精度の高い予算管理ができるようになります。成功事例・失敗事例をドキュメント化し、全社で共有することも効果的です。
予算管理で生じがちな課題
実際に予算管理を行うにあたって、次のような課題が生じることが多いです。自社の現状と照らし合わせて改善の参考にしてみてください。
適切な予算設定ができない
予算は本来、企業の戦略や市場環境を反映して設定されるべきですが、実際には単なる前年踏襲や担当者の経験則など、根拠の薄い数字が使われるケースが少なくありません。
その結果、実態に即さない予算目標となり、現場の負担増や誤った経営判断につながります。また、経営陣が現場感覚と乖離した予算目標を設定し、現場の士気が低下してしまうケースもあります。
予算管理の手間がかかりすぎる
予算に関連するデータは部門ごとに異なるため、Excelでの管理が中心の場合は時間と手間がかかり、リソースを圧迫してしまうケースも少なくありません。予算案や実績・差異などのデータ更新も煩雑になり、各部署の報告形式のフォーマットが統一されていない場合は、転記や修正といった手間も増えてしまいます。また、担当者が集計ミスをすると実績と予算の差異が誤って報告され、誤った経営判断につながる可能性もあります。
組織の変化にすぐ対応できない
組織改編や事業撤退、新規事業の立ち上げなど、企業の動きは年々スピードを増しているため、臨機応変な予算管理が欠かせません。しかし、予算管理の体制が硬直していると変化に追いつけず、適切な予算計画を立てることが難しくなります。組織構造の変化や事業拡大の際に、予算管理の進め方も対応させる必要があります。
予算管理を効率的に実施するポイント

予算管理を効率的に実施するために、次のポイントを意識することが大切です。
適切な粒度で予算を設定する
予算設定の粒度が粗すぎると、本来管理すべき数値が見えず、予算達成のための適切な施策を実行できません。予算管理を効率化するためには、経営陣の判断だけではなく現場の担当者と調整してから、目標を設定する必要があります。
ただし、粒度が細かすぎると時間がかかり、スピーディーな予算管理が難しくなるため、粒度のバランスを意識した調整が必要です。
予算の数値に固執しない
予算管理は経営目的を実現する手段であり、それ自体が目的になってしまってはいけません。内外の要因で状況は常に移り変わるため、目標を無理に達成しようとするのではなく、現状を反映して臨機応変に対応する必要があります。場合によっては、期初に設定した予算を見直すことも効果的です。
部門間の連携を強化する
適切な予算管理は、“全社一丸“となって取り組まなければ実現することが難しいです。現場の実態を予算に反映するためには、経営陣や財務など特定の部門だけではなく、各部門と連携して情報を集めることが大切です。そのうえで、“企業の目標“と“各部門のニーズ“のバランスが取れた予算を設定しましょう。
社内で運用ルールを設ける
予算設定の進め方や管理について、社内ルールの設定も欠かせません。Excelで運用する場合は、ファイルのフォーマットを整備することで、集計の手間や人為的ミスのリスクを減らせます。
また、期日を設定して予算管理に遅延が生じないようにすることも重要です。運用ルールを設定したあとは、マニュアルを作成・共有することで全体に浸透させやすくなります。
ITシステムやツールを導入する
Excel中心の予算管理は効率や正確性などの点で課題があるため、クラウド型のITシステムやツールへの移行がおすすめです。
予算管理システムを導入することで、実績データを自動的に取り込んで集計し、予算管理の工程をリアルタイム化できます。また、各部署で同じフォーマットを共有できるため、人為的ミスの削減にもつながり、迅速かつ合理的な経営判断が可能となります。
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予算管理を実施することで、企業の経営資源を効率的に配分し、経営の方向性を早期に修正できるようになります。予算管理はPDCAサイクルに基づいて実施し、改善策を次期の予算編成に反映することが重要です。ただし、予算管理には膨大なデータを取り扱うため、ITシステム導入による効率化も検討してみてください。
宝印刷株式会社が提供する“WizLabo Budget“は、クラウドベースのプラットフォームと豊富な機能で、予算管理をはじめとする管理会計を効率的にサポートします。各部門からのデータ収集はWeb上での簡単入力で完結し、集計作業も自動化されるため、従来の手作業を大幅に削減できます。
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