“経営管理”とは、企業が経営目的を達成するために必要な情報を把握し、意思決定を支援する仕組みのことです。企業が経営管理を適切に行うことで、限りある経営資源を活用し、成果を最大化しやすくなります。しかし、経営管理には業務プロセスの煩雑化や人為的ミスの発生などの課題があるため、ITシステムの導入による効率化が重要です。
本記事では、経営管理の概要と、効果的に運用するためのポイントについて分かりやすく解説します。
経営管理とは

経営管理とは、企業が経営目的を達成するために活動を計画し、経営資源の配分や総括を行うことを指します。市場のグローバル化やテクノロジーの進展など、ビジネスを取り巻く環境は変化を続けています。経営資源を適切に管理するための経営管理は、企業の持続的な成長に直結するといっても過言ではありません。
経営管理の対象
経営管理では、企業活動に欠かせない経営資源を管理します。企業の主な経営資源は次のとおりです。
| ヒト | 人材配置・育成・労働環境など、従業員に関するさまざまな要素を管理する |
|---|---|
| モノ | 製品・サービスの提供に必要な、生産設備・在庫管理・物流などを最適化する |
| カネ | 企業の経営状況を把握して、成長のための適切な予算設定と資金管理を行う |
これらの経営資源を管理する手法として、経営管理は「生産管理」「販売管理」「労務管理」「人事管理」「財務管理」などに細分化されます。
経営管理の目的
経営管理の主な目的は、“経営目的の達成”にあります。ヒト・モノ・カネに代表される経営資源は有限であるため、どのように資源を配分すべきか客観的に判断できる仕組みが必要です。経営管理を実施することで、数値に基づいた戦略的なリソース活用が可能となります。
計画どおりに事業が進捗していない場合は対策が必要ですが、経営管理では定期的に実績値との比較を行うため、早期の軌道修正が可能です。そのほかにも、経営管理には次のような意義があります。
- 収益性の改善
- 経営目標とビジョン共有
- モチベーションの向上
「経営企画」との違い
経営管理と混同されやすい用語が“経営企画”ですが、両者には明確な違いがあります。経営企画とは、企業の⾧期的な目標やビジョンを設定したうえで、具体的な計画を策定することです。最適な戦略を導き出すために、市場調査・競合分析などで得られたデータを活用します。
一方で、経営管理は“経営資源の適切な管理”に焦点を当てたものです。持続的な成⾧を実現するためには、経営企画と経営管理を連携させて相互に補完し合う必要があります。
経営管理の種類

経営管理には、主に次の5つの領域があります。それぞれの特徴と具体例を紹介します。
生産管理
製品・サービスの生産プロセスを管理します。品質・コスト・納期のバランスを取り、安定的に供給できるようにすることが目的です。具体的には、生産計画・工程管理・品質管理・設備保全などの業務が該当します。生産管理を適切に行うことで、企業活動に欠かせない生産活動の効率化が可能です。
例えば、製造業では月間需要予測に基づいて生産計画を作成し、必要なものを必要な量だけ生産するようにします。在庫状況とリードタイム(受注から納品までの時間)を考慮したうえで、生産ラインの稼働率を80%台で維持し、不良率が上昇した段階で是正措置を講じます。このような適切な管理を行うことで、無駄のない生産体制を構築可能です。
販売管理
製品・サービスの販売活動を管理します。顧客満足度を維持しながら、売上・利益を最大化することが目的です。具体的には、受注管理・出荷管理・請求管理・仕入管理などの業務が該当します。販売管理を円滑に行うことで、売上拡大を目指すことが可能です。
例えば、EC事業者の場合は受注システムと在庫データベースを連動させることで、スムーズな販売管理ができます。在庫不足時はカート投入を制限し、配送遅延が発生した際は顧客に通知したうえでクーポンを発行するなどの対応が効果的です。
労務管理
従業員の労働条件や福祉などを管理します。企業目標を達成するために、従業員のモチベーションを高めることが目的です。具体的には、労働法の遵守や労働環境の改善、就業規則を含む社内制度・ルールの整備などが該当します。労務管理を適切に行うことで、働きやすい職場環境を実現して従業員の定着率を改善し、人手不足に対応することが可能です。
例えば、サービス業では従業員の勤務シフトを需要に合わせて最適化し、繁忙期に負担を軽減するために人員を多めに配置すると効果的です。また、月間残業時間をモニタリングしてアラートを出す仕組みを導入すると、過労防止に役立ちます。
人事管理
従業員の採用から退職までに発生するさまざまな事案を管理します。経営資源であるヒトを戦略的に配置し、モチベーションや能力を向上させることで、企業の中長期的な競争力を強化することが目的です。人事管理では、採用・研修・配置・評価・昇進・退職などを扱います。
例えば、ITベンチャー企業ではスキルマップの作成や、プロジェクトごとの最適なチーム編成などの施策が考えられます。製造業では、技能継承のためのOJT制度(On the Job Training:オン・ザ・ジョブ・トレーニング)や、ベテランの暗黙知を形式知化するためのマニュアル整備などが効果的です。
財務管理
企業経営に欠かせない資産を管理します。健全な経営を継続するために、資金繰りの安定化や投資判断の最適化、経営判断に必要な財務情報の提供などが目的です。具体的には、予算管理・管理会計・資金調達・財務分析などが該当します。財務管理を確実に行うことで、資金不足を未然に防ぎ、収益性や安定性を確保することが可能です。
例えば、中小企業の場合は資金不足に陥りやすいため、月次キャッシュ・フロー計算書を作成し、3か月先の資金不足の可能性を監視できれば理想的です。上場企業の場合は、部門別の予実管理を行い、四半期ごとに“ROI(Return on Investment:投資収益率)”を評価することで資本配分を最適化できます。
経営管理のよくある課題

経営管理において生じがちな課題は、次のとおりです。具体例や改善策も交えて解説します。
業務プロセスが煩雑化する
経営管理では膨大な情報が必要になりますが、その取り扱いに課題が生じがちです。特に事業が拡大すると、部署ごとにデータが分散して全社的に把握できないことや、リアルタイムで必要な情報が得られないことが増えます。データの収集や承認などのプロセスが煩雑化することで、経営管理の業務効率が低下してしまいます。
例えば、発注処理に複数の部署が関わり、受注手段やフォーマットも統一されていない企業では、承認時間の長さや入力ミス・伝達漏れが課題となることが多いです。業務フローを可視化して無駄な工程を削減することや、共通フォーマットやシステムの導入で改善できます。
スムーズに実行できない
いざ経営管理を行おうとしても現場レベルで実行できず、スムーズに進まないというケースも多いです。その要因としては、管理職のマネジメントスキル不足や部署間のコミュニケーション不足、属人的な業務への依存などが考えられます。
例えば、売上拡大のために「年間売上10%増加」という目標を掲げていても、部署ごとの役割分担が不明確だったり、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)管理が行われていないなどの場合は実行力が伴いません。責任者とチーム構造を明確化し、KPIを設定して月次レベルで進捗を管理することで改善できます。
戦略や目標が不明確になる
経営管理の目的のひとつが“組織の方向性の明確化”です。しかし、数値目標だけが先行している場合や、経営陣の意図が現場に伝わっていない場合は、経営管理が形骸化してしまいます。また、売上や利益目標が現実と乖離すると戦略と日々の業務が連動せず、現場任せの経営になることが問題です。
例えば、飲食チェーンが業績低下に対して「顧客満足度の向上」という大きな目標を掲げても、具体的に何を改善すべきか不明な場合は成果が伴いません。各店舗が独自に取り組んだ結果、かえって顧客満足度が低下するケースもあります。顧客満足度を定量的なKPIに落とし込むことや、改善施策を標準化することで改善できます。
経営管理を成功させるためのポイント
経営管理を成功させるために、次の5つのポイントを意識することが重要です。
管理対象の業務を可視化する
管理すべき業務やプロセスを可視化することが大切です。社内で行われている業務の全容を把握できなければ、適切なリソース配分が分からないうえに、非効率な業務や重複作業が発生してしまいます。また、可視化できていない業務があると早期の課題発見・改善が困難です。
生産・販売・労務・人事・財務の各業務を可能な限り可視化し、ブラックボックス化している業務を減らすことで、無駄な時間やコストがかかっている業務を洗い出すことができます。また、業務の標準化も行いやすくなるため、業務効率化にも役立ちます。
適切なKPIを設定する
経営管理が成果につながらない原因の多くは、曖昧な目標や指標の設定にあります。経営目標(KGI:Key Goal Indicator)を達成するために必要な、具体的な数値目標(KPI:Key Performance Indicator)を設定することが重要です。
KPIの好ましくない例と改善案は、次のとおりです。
| 好ましくないKPI | 好ましいKPI |
|---|---|
| 売上を上げる | 月間問い合わせ数を30件に増やす |
| 顧客満足度を高める | NPS(Net Promoter Score:顧客ロイヤルティを測る指標)を10ポイント改善する |
| 生産性を上げる | 1人あたり作業時間を10%削減する |
KPIは適切なレベルに設定する必要があります。KPIが高すぎると目標を達成できず、逆に低すぎると従業員のモチベーションが低下してしまいます。KPIの設定後は、定期的なレビューを繰り返し、必要に応じて改善策の実施とKPIの再設定を行いましょう。
組織内のコミュニケーションを円滑化する
経営管理は企業全体に関わることなので、組織全体が一丸となって協力し合うことが大切です。情報が共有されていなければ、現場は達成すべき目標が分からないまま作業し、経営陣は課題点を十分に把握できなくなります。
その結果、成果につながらない施策に時間を費やし、改善も進まないことになります。定期的にミーティングを開いたり、情報を共有するためのルールを定めたりして、コミュニケーションの機会を設けることで改善できます。
経営管理基盤を構築する
経営管理は単発で行うものではないため、継続的に実施するための仕組み作りが必要です。強固な経営管理基盤を構築するためには、次のような施策が役立ちます。
- PDCAサイクル(Plan、Do、Check、Act)を整備する
- 経営会議をスケジュール化する
- 権限と責任の所在を明確化する
- 業務プロセスを標準化する
あらゆる権限を経営陣が握っている場合、承認待ちによって業務が停滞しやすくなります。部門長や現場の責任者などに意思決定権を委譲すると問題解決のスピードを高めることができます。ITシステムやツールの導入も経営管理基盤のひとつです。
ITシステム・ツールを活用する
移り変わりの激しい現代のビジネス環境では、常にデータに基づいた合理的な判断が求められます。しかし、担当者の経験や直感に依存した体制では、適切な経営判断を迅速に下すことは困難です。経営管理の精度を高めながら各業務を効率化するために、ITシステムを導入するのがおすすめです。
経営管理に役立つITシステム・ツール

経営管理に役立つITシステム・ツールをご紹介します。
ERP
“ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)”は、さまざまな業務プロセスを統合し、社内のデータを一元管理するためのシステムです。経営管理に関連するさまざまな業務を効率化し、意思決定の迅速化に寄与します。
BIツール
“BI(Business Intelligence:ビジネスインテリジェンス)ツール”は、企業が保有する情報を収集・可視化し、意思決定を支援するためのシステムです。社内に点在しているデータを一元管理できるため、データに基づく経営判断や業務効率化の実現に役立つ可能性があります。
予算管理システム
経営管理のひとつが予算管理です。予算管理では、企業活動に必要な予算を作成・管理することで、早期の課題把握と軌道修正につなげやすくなります。従来の予算管理はExcel中心で行われていましたが、業務効率や正確性などの点で課題があるため、クラウド型のITシステムやツールへの移行がおすすめです。
予算管理システムを導入することで、実績データを自動的に取り込んで集計し、予算管理の工程をリアルタイム化しやすくなります。各部署で同じフォーマットを共有できるため、人為的ミスの削減にもつながり、迅速かつ合理的な経営判断が可能となります。
経営管理でお悩みの方は宝印刷株式会社にご相談ください

経営管理には、生産管理・販売管理・労務管理・人事管理・財務管理などの分野があります。経営管理を成功させるためには、管理対象の業務を可視化し、適切なKPIを設定することが大切です。しかし、経営管理は業務プロセスが煩雑化し、現場でのスムーズな運用が難しくなることがあるため、一部業務にITシステムを導入して効率化を図ることが有効です。
宝印刷株式会社が提供する“WizLabo Budget”は、クラウドベースのプラットフォームと豊富な機能で、予算管理をはじめとする管理会計を効率的にサポートします。各部門からのデータ収集はWeb上での簡単入力で完結し、集計作業も自動化されるため、従来の手作業の負荷を軽減できます。
さらに、“WizLabo Budget”で作成した予算データは、上位プランである “WizLabo” とのシームレスなデータ連携が可能です。部門横断的なデータ管理と分析を実現し、より高度な経営判断を支援することにつながります。経営管理の効率化やデータ活用でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。