紀陽銀行の価値創造ストーリー ─ 和歌山・大阪エリアでの成長ポテンシャルを可視化する、紀陽銀行の統合報告書

「紀陽銀行ならではの強みは何か」――。和歌山と大阪という、地域特性の異なる2つの経営基盤を有する当行独自の強みを、より多くの方に感じてもらいたい

和歌山県内で圧倒的なシェアを持ちながら、大阪でも75年以上にわたり事業を展開してきた紀陽銀行。長い歴史の中で大阪エリアでの中小企業取引の拡大を成長戦略の柱とし、エリア別戦略による企業価値向上を明確に打ち出しています。2021年に統合報告書を発行して以降、同行は毎年内容を磨き続けてきました。
統合報告書2025では、PBR1倍達成に向けたロジックツリーを起点とする構成を意識し、経営戦略・中期経営計画・各施策がどのように企業価値へつながるのかを体系的に示しています。

統合報告書を通じて「伝えるべき強み」を発信してきた担当者に、制作の背景と工夫について伺いました。

株式会社紀陽銀行
和歌山県と大阪府を主要エリアとする地方銀行。本店を置く和歌山県内において高いシェアを有する一方、大阪府下でも事業基盤を拡大しており、独自のエリア別戦略を展開しています。130年以上にわたる歴史と堅実経営を背景に、中小企業向け「貸出」から「取引」全体を起点としたビジネスモデルへの変革をめざし、コンサルティングや地域のDX支援など、地域課題の解決に積極的に取り組んでいます。

株式会社紀陽銀行 統合報告書(ディスクロージャー誌)2025

二つの経営基盤をどう伝えるか

──統合報告書の制作を始めたきっかけと目的を教えてください。


(写真:株式会社紀陽銀行 経営企画部 広報室 室長 中西 強 様)

中西様(以後、敬称略):2021年4月に公表した第6次中期経営計画に合わせて、統合報告書の制作を開始しました。株主や機関投資家の皆さまとの対話をより深めたいという思いが出発点です。
従来の財務中心のIR資料では、経営戦略や非財務価値を一体として伝えることが難しく、財務・非財務情報を一つの文脈で示せるツールが必要だと考えました。そこで、当行の強みや戦略をストーリーとして整理できる媒体として統合報告書の発行を決めました。
発行以来、毎年内容の改善を重ねており、統合報告書2025では従来掲載していたPBR向上に向けたロジックツリーを「企業価値向上に向けた取り組み」の冒頭に掲載しました。
当行では中長期目標としてPBR向上を掲げていますが、数値目標だけでは投資家の皆さまに十分伝わりません。PBR目標を起点に、経営戦略や第7次中期経営計画の4つの主要戦略がどのように連動しているかを一目で理解できる構成としました。

──特に伝えたかった強みはどこですか。


(写真:株式会社紀陽銀行 経営企画部 広報室 副室長 平安山(へんざん)千恵 様)

平安山様(以後、敬称略):投資家の皆さまとの対話の中で、当行の大阪エリアでの歴史や戦略を知らなかったというお声を多くいただく中、当行ならではの強みの一つとして、和歌山と大阪の二つの経営基盤を有している点を、統合報告書を通じて伝えたいと考えました。
大阪エリアでは75年以上の歴史があり、経済規模の大きさや今後の成長性を踏まえ、中小企業取引の拡大における成長戦略の柱としています。2025年3月期においては、大阪事業部を中心に事業性貸出金残高が前年比2,626億円増加し、前年比12.0%増となりました。
こうした数値を示しながら、和歌山と大阪それぞれの市場環境と営業戦略を丁寧に紐解き、当行独自のエリア別戦略が企業価値向上へと結び付く流れを、ストーリー性を持って表現しました。その結果、投資家の皆さまとの対話の中でも「大阪エリアでの戦略や実績、今後の成長性がよく理解できた」という心強い声をいただけるようになりました。

── 二つの事業エリアを載せるうえで難しかった点はありましたか。
平安山:和歌山と大阪それぞれの地域特性や魅力に加え、当行の戦略や成長性をエリアに応じてどのように記載するかについては、制作過程で最も頭を悩ませた点のひとつでした。当行は和歌山県発祥の地方銀行であり、これまで地域の皆さまに支えられて事業を拡大してまいりました。現在では、和歌山県内では預金・貸出金ともにトップシェアであり、事業性メインバンクシェアは63%に達しています。この安定した経営基盤と、大阪での成長戦略をどう結びつけて示すか。二つの方向性がどのように連動し、企業価値向上につながるのか、これを一本のストーリーとして整理するため、行内で何度も議論を重ねました。
統合報告書2025では、エリア別の貸出金残高や当行のシェアといった具体的な数値を用いることで、和歌山・大阪の両エリアにおいて当行が同時に成長している姿を示しました。その結果、エリア別戦略が当行の成長にどのように結び付いているのかが伝わる構成になったと感じています。

PBR向上のロジックツリーで戦略の因果を示す

──制作で特に力を入れたパートを教えてください。

平安山:私たちが最も力を注いだのは「企業価値向上に向けた取り組み」のパートです。
中でも象徴的なのが、PBR向上に向けたロジックツリーと各戦略を連動させる構成です 。PBR向上という中長期目標を起点に、経営戦略や中期経営計画の4つの主要戦略、各施策がどのように連動しているのか。投資家の皆さまが、その全体像を一目で把握できる構成にこだわりました 。
さらに、続くページでは各戦略の概要と進捗を具体的な数値とともに示しています。
2025年3月期のROEは7.46%を達成し、2025年5月には第7次中期経営計画の最終年度目標を従来の7%以上から8%以上へと上方修正しました。
また、収益性指標であるRORAについても、アセット別・エリア別に細分化して掲載し、投資家の皆さまが知りたい視点で読み解けるようにしています。
単なる結果の提示ではなく、戦略と数値のつながりを示すことを重視しました。

──制作全体を通じて苦労した点はどこですか。
平安山:個々の取り組みを一つの「ストーリー」としてまとめあげることに、最も知恵を絞りました。当行は多種多様な施策を実施しておりますが、それぞれを個別に説明するだけでは、企業価値向上との関係性が見えにくくなってしまいます。例えば、営業戦略のひとつに、事業性のお客様を管理移管(※)することによって営業担当者の移動時間を年間約9,400時間削減し、その時間を本業支援活動に充てるという取り組みがあります。成果としては分かりやすいのですが、それがどのようにPBR向上につながるのかを説明する必要があります。各施策がどの戦略に位置付けられ、どの指標の改善につながるのか。その因果関係を整理する過程で、ロジックツリーと各戦略を連動させる構成にすることを決めました。
※各営業店が管理する遠方訪問先を口座等を変更せずに近隣拠点へ移管することで、営業担当者が投下している「遠方先への移動時間」を「顧客接点時間」や「本業支援活動」へ転化し、お客さまへのサービス力強化およびお客さまとの更なる関係性向上を実現するための取り組み。

行内に浸透する統合報告書の役割

 ──社内ではどのように活用されていますか。


(写真:株式会社紀陽銀行 経営企画部 広報室 和田 美波 様)

和田様(以後、敬称略): 統合報告書は、投資家向けの開示資料であると同時に、行員にとっても自分たちの戦略を理解するための「共通言語」としての役割を担っています 。
具体的な活用場面として代表的なケースが、人事部が主催する階層別研修での活用です 。経営人材の育成を目的としたプログラムの中で受講生一人ひとりに統合報告書を配布し、財務・非財務の両面から当行の戦略を読み解くツールの一つとして役立てています 。
また、各営業店にも複数部ずつ配布しており、現場での経営理解を深めるだけでなく、お客さまへの事業説明の際にも活用されています 。

──若手行員への浸透はどう工夫されていますか。
和田:統合報告書2025では、統合報告書の特集記事を切り出して、行内通達で紹介する取り組みを初めて実施しました。統合報告書には毎年様々な特集企画を掲載しており、行員インタビューを写真付きで紹介することで、若手行員にも身近な存在として関心を持ってもらえるようになったと感じています。
取り上げたのは
・未来創造室座談会
・社外取締役・ダイバーシティ座談会
・スタートアップ支援拠点「Key Site」座談会
などの特集です。2024年度に新設した未来創造室の行内兼業メンバーで実施した未来創造室座談会では、兼業での経験談や想いを語り合う内容となっており、営業店の行員からも反響が大きかったです。

身近な先輩が掲載されていることで、「自分たちの報告書だ」という意識が生まれたのだと思います。統合報告書が社内外のコミュニケーションツールとして機能し始めていると感じています。

「方針の記述」から「実践の記述」へ──次年度の課題

── 前回の報告書を振り返って課題はありますか。
中西:率直に申し上げますと、目標や戦略フレームの説明に注力しすぎてしまい、具体的な取り組みの記述がやや不足していたと感じています 。投資家の皆さまとの対話の機会が増える中で、一部の投資家さまからは「方針や目標は理解したが、具体的に何をしているのか」というご質問をいただくこともあります 。
次年度では新たなコンテンツを増やすだけでなく、既存戦略に基づいた具体的な施策やその成果、そして各指標へとつながるプロセスをより丁寧に記述していきたいと考えています 。
また、ガバナンス開示の充実も重要な課題だと捉えています 。投資家の皆さまの関心が非常に高まっている領域ですので、形式的な説明に留まらず、内容をさらに深めていく必要があります。

── 発行を続ける中での難しさはありますか。
中西:当行の強みや方針など、骨格となるストーリーは変わらないため、どのように魅力を伝え続けていくか、毎年ご覧いただいている方々にどのように更なる成長性を感じていただくかなどについて難しさを感じています。
今後は、AIなどの社会的関心の高いテーマに絞るなど、年度ごとにテーマを設定し、構成上のメリハリをつけることも検討していきたいと考えています。

宝印刷との協働で進める改善の循環と今後の展望


(写真:宝印刷担当と)

── 初回発行時から宝印刷をパートナーに選ばれている理由はありますか。
平安山:宝印刷様とは、統合報告書発行の前から有価証券報告書や決算短信などの法定開示書類において長年お付き合いがあり、財務情報を正確かつ迅速に扱うノウハウへの信頼がありました。統合報告書発行後には、毎回フィードバックや他社の開示内容など情報共有いただいており、その内容を次年度の開示に活かしています。継続的な関係だからこそ、当行の経営の文脈や課題感について共通認識をもったうえで毎年改善を進められており、統合報告書の変遷を共に歩んできたパートナーだと感じています。

── 制作の中で印象に残っている支援はありますか。
平安山:統合報告書の制作は、キックオフミーティングから完成まで半年以上にわたる期間を要します。完成までには何度もブラッシュアップを行う必要がありますが、ご相談させていただく度、いつも迅速にご対応いただき大変助かりました。最終段階まで各ページの内容を精査し、十分に検討を重ねることができたのも、宝印刷様に最後までご尽力いただいたおかげと深く感謝しております。

── 今後、統合報告書をどのように発展させていきたいとお考えでしょうか。
平安山:当行ならではの強みや戦略を表現し、各目標達成に至るプロセスをさらに明確化することで、ステークホルダーの皆さまに当行の魅力や成長性を感じていただける内容にしていきたいと考えています。
また、IR活動等でステークホルダーの皆さまからいただいたご意見も参考に、引き続き開示内容の充実を図ってまいります。

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